ふわり、風に吹かれて ふぅと、一息。綿帽子はその子供たちを見送った。風に乗った綿毛は新たな地へと旅立って行く。その様を楽しげに見つめながら、は小さく微笑んだ。 「どこ行くんだろなぁ」 「さぁな。そんなの、わかんねぇさ」 制服のポケットから煙草を取り出して、俺っちは火を点けた。ふうわりと広がる紫煙、その向こうには遠ざかっていく綿毛たち。何ともミスマッチなその光景をぼんやりと眺め、次いでその横顔に視線を移した。先程の笑みは、もうどこにもない。そのことに僅かな淋しさを覚えて、くしゃり、空になった紙箱を握る。 「これでもう、淋しくないね」 「は?」 「煙草の香りと一緒だから、もうどこへ行っても淋しくないよ」 そう言って、は綿毛を失った綿帽子をくるくると回した。その仕草に、俺っちは何となくもう一度、煙を吐く。それはまるで意志を持つかのように、広がり、消えていった。そうすればまたお前が笑うような、そんな気がしたから。 「天化の香りと一緒なんて、いいな」 「・・・あほ、さ」 赤く染まった顔を見られたくなくて、空いた手でその頭をぐしゃぐしゃに掻き乱してやった。それでも構わず笑い続けるお前が、ちょっとだけ憎たらしくて、だけどどうしようもなく愛しくて。その笑顔がすきだなんて、今更面と向かって言えない。だけどこれが今の自分にできる、精一杯の想いの伝え方。 「淋しくないと、いいな」 「・・・だね」 ふわり、風に吹かれて。綿毛はどこまでも飛んでゆく。 end. |