白に染まる 屋上の入り口、錆びついた鉄製のドアを押すと、そこには空の海が広がる。 「太公望の中に、白を感じたの」 「しろ?」 「そう。まーっしろなひかり」 きらきらと輝く陽光を浴びながら、は一歩踏み出す。その両手を、まるで蒼に囚われたかのように高く掲げて。古びたフェンス。そのまま歩みを進めても、それがあやつの行く手を阻むだろう。そのことに僅かな安堵を感じ、わしはその肩にそっと触れた。 「・・・どうしたの?」 「いや、」 「大丈夫だよ。わたしは、どこへも行かない」 まるで全てを悟ってるかのような澄んだ瞳が、じっとわしを捉える。不覚にも胸が落ち着きをなくす。触れた肩からじんわりと伝わる温もりに、何故だが泣きたくなった。くるしい。 「どうして、わしが白だというのだ?」 「理由なんてないよ。ただ、そう感じたの。白。何色にも染まらない、きれいなしろ」 それ以上の追求を拒むかのように、己の手から逃れるように、はまた一歩踏み出した。カシャン。無機質な金属音が、軽く響いた。その網目に手を掛けながら、あやつはずっと遠くを見据える。白。その横顔に、わしはその色を見つけた。 「白はわしというよりも、おぬしであろう」 「・・・わたしが?」 心底驚いたように目を瞬かせた後、はとても嬉しそうに笑った。しろ。何となくだが、その色に含まれた感情の意味を理解する。それはひどく温かい。 「じゃあ、おそろいだね」 あたたかい。 end. |