丁寧に切りそろえられた木が風情を感じさせる庭、伝統を感じさせるような古さの廊下、適度に慣れている畳。先生の後ろについて私はてくてくと歩いている。誰かとすれ違うと、誰もが先生にぺこりとお辞儀をし、私に会釈とともに誰だろう、という視線をぶつける。少しトゲトゲとして嫌だなあ、と思う。本当に先生はいつも、こんなところで生活しているのか。 「そんなに新鮮?」 「え、あ、えっと〜…」 「さっきから随分キョロキョロしてるから」 先生はにやり(彼の笑い方はそうとしか表現できない)と笑って私を大きな畳の部屋に通した。きっちりと整えられた部屋。床の間には高そうな花瓶に花が生けてある。「ちょっと待ってて」と言われると彼は私を残しどこかへ行ってしまった。だだっ広い部屋にひとり残される。どうしていいかわからず、とりあえず正座をしてから部屋を見渡した。 事の発端はすごくすごく単純だった。太乙先生に「あれでも雲中子はすごいお坊ちゃんでさー、実家はお茶の宗家なんだよ〜」と教えてもらった私は、すぐに雲中子先生のところへ向かい、軽い気持ちで「先生の家に遊びにいきたい」と告げた。だからすぐに「構わないけど」と言われて、私は「え」と間抜けな声をだしてしまった。そんなすぐにオッケーをもらえるなんて思ってなかったのだ。 「そんな縮こまらないで楽にしなよ」後ろから声をかけられて振り返ると、先生が立っていた。洋服は背広から着替えていて、ラフな格好になっている。 「着物じゃない」 「毎日毎日着物のわけないじゃん。茶会のときくらいしか着ないよ」 「え〜つまんないの。着物が見たくて来たのにさ」 私が文句を言うと先生は「贅沢を言うな」と私の頭を軽く叩いた。どうせなら飲んでいけば、と言われて先生がその場でお茶をたててくれる。さっきまで無音だった広い部屋に、しゃかしゃかという音が響いている。先生が着物じゃないのは残念だけれど、また遊びにくればいい。いっつも白衣しか着てない先生だから、それ以外の服のイメージがつかないけれど、案外着物を着たらかっこいいのかもしれないなとぼんやり思った。足がじんじんとしびれ始めている。限界は近そうだ。 (燕息) 雲中子がお茶の宗家の跡取り息子だったら萌えるよね〜という…。 (060402/なぎこ) |