窓際、一番後ろの席。お日様のおかげでとてもあたたかい。天気が悪くて寒い日なんかは外の冷気のせいで寒いけど、晴れた日は本当に気持ちのいい席だと思う。そんな場所が自分の席だなんて、私はなんて幸せ者なんだろう。そんなことを考えながら、ペンを走らせる。正直、今はそんなことを考えている余裕などなかったのだけれど。


「…のう。のう、


「…なに?」


「何をしておるのだ?」


「内職」


机の上に広げた数枚のプリントを睨みながら、黙々と書いている。教科書は、そのプリント類を隠すように広げられている。ノートはプリントの下敷きになっていた。


「おぬし、今度の現代文の試験はやばいとか言ってなかったか?」


「今日中に提出しなきゃいけないのを、会計係が2人ともインフルエンザで来てないからって押しつけられたんだよ。試験前にはお世話になるからよろしくね」


一度も机から顔を上げずに音量を抑えて答えるから、太公望は気付かれぬよう小さく溜息をつき、視線を外して正面を向いた。
教師の声が響く教室の中、午後の授業ということの所為か、こっくりこっくりしている者も少なくはない。普段だったら、この教科担当である教師の授業で居眠りをする生徒はほとんどいないのだが。今日はあたたかいから。午後の授業だという理由の次に、それも原因の1つだろう。


「…


「なに」


「消しゴム落ちた」


「……ありがとう」


授業が始まってからおよそ30分が経っていた。さすがに一番前の席で寝ている者はいなかった。
教師が、黒板にチョークを走らせる。どことなく心地良い音だった。そして隣からは、必死でペンを走らせる音。


「…のう、


呼ぶと、は勢いよく太公望に顔を向けた。とりあえず、穏やかではない顔を。そしてペンをその手に握ったまま、


「あのね太公望。私、頑張ってるの。頑張らなきゃなの。これ書き終わらないと今日帰れないの。分かる?分かるよね?」


ぺしぺし、とペンで机の上のプリントを軽く叩く。太公望はの顔を見つめたまま二三度頷いて、


「早く終わらせんと、わしと一緒に帰れんしのう」


「そうそう、早く終わらせないとね、と……違うから!」


瞬間、太公望との間を何かが凄い勢いで飛んでいった。お互いを向いていた2人の間、2人の目の前を横切って。それは教室の後ろの壁に当たって、砕ける音を発した。教室中の視線が集まる。こっくりこっくりしていた者も、今の大きな音で目を覚ましたようだった。硬い動作で、2人は後ろの壁を振り返る。真っ白いチョークが、ぶつかった跡を壁に残し、粉々に砕け散っていた。まだあまり使われてなくて長かったはずのチョークは粉と破片だけになり、床に散らばっていた。


「太公望ちゃん、ちゃん、今は現代文のお勉強中よん。私語もほどほどにねん」


ゆっくり、確かめるような物言いで告げて、教科担任である教師はにっこりと笑った。今の2人には、この笑顔ほど怖いものはない。無言で、同時に深く頷いた。


「授業を再開するわん。眠い子も寝ちゃダメよん。ここはテストに出すからん」


クラスメイトたちの視線は正面に戻った。テストに出る、というせりふを聞いて、慌ててノートを取り始める。はため息をついて、再びプリントに向かった。


「…もし、それが帰る時間までに終わらんくても、」


太公望の声は先程よりも小さい。妲己は気付いていない。はプリントから顔を上げ、太公望を見た。


「…仕方ないから、待っといてやるとするかのう」


独り言のように。


窓際、一番後ろの席。

あたたかいのは、お日様のおかげだけじゃないかもしれない。


















さんは生徒会役員とかいう設定です。
で、太公望とは同じクラスで幼馴染みだったりして一緒に帰ってたらいいなぁとか思います。

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05,09,11